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『スーツを着たミュージシャン』

茂呂さんの太鼓は、バズーカーである。
はじめて彼の演奏会を聞きに行ったとき驚いたことがある。太鼓の爆音と混じって天井あたりで何かがブイーン、ブイーンと鳴っているのだ。なんだろう？会場の天井のむき出しの配管やステンレスのダクトが共鳴して激しく震えて、鳴っていたのだ。ブイーン、ブイーン、ビリビリ。
そういうものが一緒になって共鳴するほど、空気を揺らす爆音を彼の太鼓は、出していたのだ。従って、私の体も心も激しく共鳴した。ブイーン、ブイーン、ビリビリ！

そうした爆音を奏でるバズーカー型太鼓を叩く茂呂さんは、スーツを着ている。
これも私が驚いたことだ。誰かに似てるなー。直感的にこう思った。ハードボイルド映画の主人公だ。外のハードな現実に揉まれて一日の仕事を終え、探偵事務所に帰って来て、机の奥の引き出しからバーボンを取り出して呑む。拳銃のホルスターを渡したスーツ姿。あのかっこ良さ。フォーマルだけども、その下は、ハードボイルド。そういう感じがした。

ところが茂呂さんは、よく笑う。ほがらかに笑う。あははは！これが本当に！いい感じの周波数なのだ。なんというかこっちも顔がほころんでスマイルマークなってしまう。
スーツを着たミュージシャンは笑い声も音楽なのだ！

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